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2012年10月2日火曜日

Möwe 1941 その3 疑問の多い部材リスト

冊子冒頭の部材リスト
少し間が開いてしまいましたが、前回からの続き。ドイツで設計されたと思しき戦前の模型グライダー メーヴェの図面についてです。

まずは左の部材リストをみてみてください。これを見ると、この模型が紹介された当時にあっても相当特殊な立ち位置の物で有ったのではないか、と考えられます。

まず第一に、部材選択の問題です。この模型では主要部材として松の角棒とベニヤが多用されていますが、これは変わっています。
バルサ材が容易に入手できないとしても、日本で模型飛行機を作る場合は棒材には竹ひごかヒノキの棒を使い、面積・体積のある部材を作成するためにはホオの無垢材等を使用するのが一般的だったと考えられており、松やベニヤを使用した、という話はあまり聞きません。

これはこの冊子から得られる情報をすべて真実だと仮定した場合、ドイツで設計された模型のため、部材選択も当時のドイツで一般的なものが使用され、そのままの形で紹介された、と考えられます。
しかし、それによっておそらく特殊な立場にある人以外には材料の入手からして難しい物であった事が想像できます。

もちろん、松は日本でも取れますが、部品表を見ると、寸法がmm単位で指定されています。建材としての松ならば当時でも入手はそれほど難しくないと考えられますが、それらはおそらく尺貫法に合わせたサイズしか用意されていなかったのではないかと思います。模型用にmm刻みの多様な寸法に製材した細い棒材を入手するのは難しかったのでは無いでしょうか。

また、合板(ベニヤ)の多用についても当時の国情に照らしてみると、無理が多いと思われます。問題は接着剤です。実はこの冊子にも組立て時の接着剤(膠着剤と表記)についての説明がありますが、当時の日本で一般的に手に入る接着剤と言えば、膠や澱粉のりをベースにした天然素材系の接着剤が主で、耐水性や耐熱性、それにおそらく強度に問題を抱えていました。その状況で1.2mm厚等と言う極薄のベニヤを大量生産できていたのか疑問です。

このあたりの当時の事情を調べるため、週末は古本屋めぐりをしたのですが、当時の事情をはっきり説明した資料には行き当たりませんでしたので、上記は想像に過ぎませんが・・・

組立てに使う接着剤についても、ドイツではRudol333という接着剤が流行しており、この模型もそれを使用していると書かれていますが、同時に
”これは先ず入手が困難でしょうから、市販の膠着剤を代用品として使用するより致し方ありません”
とも書かれています。

ちなみに、Rudol333とはどんな接着剤なのか軽く調べてみたのですが、冊子の説明では繊維質の耐水性の物、とありましたが、Rudol社のサイトにはおそらく後継製品と思われるRudolFix333についての説明があり、どうも合成ゴム系接着剤のようでした。

さらに言うと、昭和13年にはセメダインCが発売されているのですが(これも耐水性で繊維質)、この図面を紹介する時点でまだ一般的でなかった(著者が知らなかった)のか、上記のRudol333に比較して劣っているためあえて言及しなかったのかは分かりません。
瞬間接着剤やエポキシ接着剤、それに木工用ボンドも無いと来れば、セメダインCで良い(というか、それしか無い)気がしますが・・・

今作るなら普通に航空ベニヤとヒノキの棒材で間に合わせる事が出来ますし、接着剤もよりどりみどりですが、当時どれほどの人がこの指示のとおりの部材を集める事ができたのか考えると、当時の一般的な大人(どの道、子供の手に負えるとも思えないので)でも相当難しかったのでは無いかと思われます。

しかも、問題は主要部材にとどまらず、細かい部品も手配の難しそうなものが潜んでいます。リストを掲載してしまっているので見た方はお分かりだと思いますが、木材と接着剤が長くなりすぎたので続きはまた明日!